荻島弘一

アジア躍進の陰に「テクノロジー」あり、は言い過ぎだろうか。前回大会から導入されたVAR、今大会はより精巧になり、半自動オフサイド判定システムも加わった。これが欧州や南米の勢いをそいでいる。 「公平なのだから、どっちもどっち」と突っ込まれそうだが、ここまでは「弱者」が有利に思える。日本戦でのドイツの2点目やサウジアラビア戦でのアルゼンチンの2点目は、いずれもオフサイドで取り消し。入っていれば、流れは変わった。スペイン戦の三笘の1ミリが認められたのも機械の力。VARが勝敗に影響を与えた試合は多い。 主審の判断は、どうしても「強者」に傾く。「ドイツは最後に勝つ」「これを決めるのがアルゼンチン」…。潜在意識が時に公平さを失わせる。かつてプロ野球には「王ボール」があった。「大打者が見逃すのだからボール」と判定。無意識のうちに下す「強者」有利の判断は否定できない。 強豪国には「審判の判断を狂わすのも技術」とする考えもある。言葉は悪いが審判を「欺く」ことが容認される。「ずるをしてもOK」「見つからなければいい」と。アルゼンチンMFマラドーナの「神の手」はその最高峰。世界的には明らかなハンドも、同国内では称賛されるという。 日本選手には「マリーシアがない」と言われる。世界で勝てない理由にもされた。確かに駆け引きなど足りない部分もあるが、それでも日本は正々堂々と戦うことをやめなかった。育成年代から「ずるはダメ」と指導するのが日本サッカー。少年からJリーグ、代表まで、ぶれずに続けてきた。 VARは審判の判断を助けるとともに、審判の目を盗む「ずるさ」を厳しく排除する。それが、日本などアジア勢の躍進につながった。ドイツ、スペイン戦の勝利は、日本が愚直にルールを守り、まじめにサッカーに取り組んできたことへの「ご褒美」でもある。